膵臓の「未病」について

2020/08/03更新

こんな症状ありませんか

 膵臓が弱い方は、次のような症状が出やすいのですが、これらすべての症状が出ることもあれば、一つしかないということもあります。
もちろん症状の種類が多いと日常生活も大変、ということになりやすいですが、そのことと「病気が重い」ということは別です。
このことはまた後で述べたいと思います。

1. 左季肋部痛、左背部痛

 痛くなる場所は多少バリエーションがあるものの、「痛み」は最もよく見られる症状の一つです。
多いのは左の肋骨のすぐ下あたりや、左の肩甲骨付近から左の背中の肋骨の下あたりまで。
左の首や左の腕、左脚が痛くなる方もいらっしゃいます。
数は少ないですが、右側のお腹が痛くなる方もいらっしゃいます。(その場合でも、押すと痛いのは左側のことが多いようです。)

 痛みの種類は千差万別で、「なんとなく違和感がある」という方から、「軽い鈍痛が続く」「重くて辛い」「差し込むように痛い」まで、いろいろなパターンがあります。
この「痛み」のせいで不安になってしまい、「死んでしまうのではないか」といった恐怖が増幅されてしまうことも多いのですが、実際のところ、「痛みの強さ」と「実際の病気の重さ」にはあまり相関関係がありません。
また、痛みが出たからといって、毎回膵臓が壊れて病状が進んでいるというわけでもありません。
毎回一喜一憂するのではなく、「生活に支障がなければよい」とゆったり構えて付き合っていく姿勢も必要になります。

ただ、「飲酒して痛くなった場合」は別です。
徐々に病気が進んでいくことも多いように思います。
(なかなかお酒がやめられない場合も、あきらめないでください。
別の章で、お酒について取り上げますので、そちらをお読みください。)

 なお、高熱を伴ったり、うずくまるほどの痛みが出てしまった場合は、急性膵炎の可能性がありますので、当院のような「クリニック」ではなく、マンパワーと入院施設のある大きな病院を受診するようにしてください。

2. 倦怠感・眠気

 倦怠感・眠気も、よく見られる症状。
「倦怠感が強くて動けない」
「すぐにだるくなって、横になって寝てしまう」
「我慢できないほどの眠気に襲われる」
という方はとても多いです。

 ただし、多くの場合、膵臓をいたわった生活にしてあげるだけで症状は軽くなります。
倦怠感・眠気の改善には時間がかかることも多いので、気長に取り組む、焦らない、ということもとても大切です。

3. 下痢

 下痢も膵臓が弱い方によく見られる症状です。
もっとも、下痢は他の色々な疾患でも見られる症状ですので、それが「膵臓によるものかどうか」を見極めるのは、なかなか難しい場合もあります。
「油ものを食べた時や、飲酒した時に下痢になる」というような典型的な症状の場合では、膵臓が弱いことによる下痢を疑いやすくなります。

 「脂肪便」は膵炎の症状として有名ですが、専門でない人が見た目で判断するのはなかなか難しいように思います。
ラーメンのように油が浮いている状態なら脂肪便と判断してよいだろうと思いますが、なかなか正確には判定できないケースが多いようです。

4. 微熱

 膵臓が弱い方は、よく微熱が出てしまいます。
37.5度くらいまでの方が多いようです。
38度まで行ってしまう方は、違う病態を疑って検査を受けていただいた方が良いように思います。

5. 低血糖症状

 冷や汗、居ても立っても居られない感じ、イライラ、手足の震え、動悸などの症状が出るが、甘いものの摂取で改善するという場合は、おそらく低血糖症状です。
膵臓の弱い方は、この症状が比較的よく見られます。
糖尿病の治療を受けているわけでもないのに、低血糖症状がみられる場合、インスリン産生腫瘍や反応性低血糖など、他の病気も考慮しなければいけないのですが、膵臓に典型的な症状がみられる場合には、たいてい「膵臓が弱いことに起因する」と考えて良いように思います。
膵臓をいたわる生活にしていただくだけで、低血糖症状はあまり起きなくなっていきますので、それほど心配することはありません。

低血糖が起きてしまった時のために

 低血糖症状が起きてしまった時のために、ブドウ糖でできたラムネ菓子を常備しておくとよいと思います。
手に入りやすく、軽くてリーズナブルなのでオススメです。

蛇足

 当院の外来で診ていると、膵臓が弱くて低血糖になっているだけの方の数はかなり多い印象なのですが、一般の内科の先生方はこの概念なしで「原因不明の低血糖症状」とどう向き合っておられるのか、とても不思議に思います。
一般に広く認知されれば、お金もかからず低血糖症状から解放される方もものすごく多いだろうと思いますので、早く「膵臓が弱い」という概念が世の中に広がってくれると良いなぁと思います。