膵臓の「未病」について

2020/08/03更新

生活療法

 膵臓が弱い方の治療の基本は、生活療法。
生活療法だけで調子が良くなる人がとても多いですし、薬物療法をするにしても、生活療法ができていないと効果が出ないことがほとんどです。
ぜひ、しっかり生活療法に取り組むようにしてください。
ただし、神経質にはなり過ぎないようにしないといけません。
特に、「しっかりできないと膵臓が悪くなって死に近づくのではないか」といった発想になってしまったら、それはいきすぎですので気をつけるようにしてください。

なんといっても禁酒

 アルコール類は膵臓にとって、もっとも害のあるものです。
膵臓が原因で亡くなる方は、ほとんどの場合、癌かアルコールで亡くなります。
ですから、膵臓の状態が悪い方は、ひとまず禁酒することが最も大切な対処となります。
お酒の入った洋菓子なども、要注意です。
料理でお酒を使う場合は、しっかり熱で飛ばしてしまえば問題ありません。
そうは言ってもなかなかやめられない、という方も少なくないと思います。
その場合は、次の「お酒がなかなかやめられない」の章をよく読むようにしてください。

次に脂質制限

 お酒に比べればかなり害が少ないとはいえ、脂質は痛みの原因として非常にメジャーです。
目安としては、1日に摂取する脂質を25~50gに制限するとよいと思います。
その範囲内であれば、揚げ物なども食べていただいて大丈夫です。(味見くらいになってしまうかとは思いますが…。) ドレッシングなどもできればノンオイルのものにしてください。
外食は基本的に油(=脂質)を多く使っていることが多く、注意が必要です。
意外なところでは、外食のパスタなどもかなり油が使われており、食べた後に調子を崩す方が少なくありません。
洋菓子も、ほとんどの場合、3分の1が油(バター)ですので、量には気をつけなければいけません。

どの油もダメ

 魚の油なら大丈夫かとか、エゴマ油ならどうだとか、エクストラバージンのオリーブオイルならいいんじゃないか、とか、いろいろな患者さんから言われるのですが、「どの油ならたくさん摂っても大丈夫」ということは一切ありません。
理論上は、中鎖脂肪酸(MCTオイル)なら膵臓に対する負担が少ないはず、ということにはなっていますが、ずいぶん高いわりに「MCTオイルにしたらとても調子が良かった!」という患者さんは今までのところ一人もおられません。
つまり、変な期待をしたり、変なチャレンジをするのではなく、おとなしく脂質制限をしておくのが無難です。

極端にダメな油がある人も

 また、中には特定の種類の油で、アレルギーのように反応してしまう方もいらっしゃいます。
その場合は、量が少なくても痛みが出てしまうため、その油を避けなくてはいけません。
当院の患者さんですと、豚の油がダメ、という方が比較的多いような気がします。

制限のし過ぎは禁

 ホルモンの原料の一つは脂質ですので、脂質の摂取量が25gを切ると、体調がおかしくなってしまいます。
特別に痛いとき、調子が悪いときは、一時的に25g未満の脂質摂取量にしていただいてもいいですが、普段は25g以上にするようにしてください。

昭和30年代の脂質摂取量は25g

 昔の統計を見ますと、昭和30年代の日本人の平均脂質摂取量は25g/日だったようです。
日本人の遺伝子的は、そういう脂質の少ない食事に最適化されているのだろうなと考えています。
また、そういう食生活では、膵臓が弱くても症状が出る方は少なかっただろうと思います。

甘いもの

甘いものはできるだけ避けてください。(少しなら大丈夫です)
食べるときは、洋菓子よりも和菓子をお勧めします。
その際も、できるだけ食事のときに、少量にとどめるようにしてください。
果物にも果糖が多く含まれており、食べすぎは禁物です。

辛いもの

 辛いものは食べても大丈夫な人が多いのですが、たまにダメな方もいらっしゃる印象です。
理由としては、胃に刺激を与え、間接的に膵臓に負担をかけることがあるようです。

カフェイン

 カフェインもとりすぎれば胃・膵臓に負担をかけますので、控えめにしてください。
1日1杯程度であれば問題ないことが多いようです。
なお、ほうじ茶、ウーロン茶などにもカフェインは含まれています。
麦茶、どくだみ茶、黒豆茶、ハーブティーなどは問題ありません。
コーヒーに代わるものとしては、タンポポ茶がオススメです。
(コーヒーのような味で、ミルクを入れても楽しめます。)

食べすぎ

 上記すべてに配慮した内容でも、食べ過ぎれば膵臓に負担がかかります。

ストレス

 ストレスも膵臓に負担をかける重要な因子です。
余計なストレスは避けるようにし、できるだけ発散する場を持つようにするなど、工夫してください。

タバコ

 タバコも膵臓に負担をかけます。
一般に知られているよりも、タバコは膵臓に悪さをすることが分かっています。
タバコは膵癌の他、肺癌、口腔・咽頭癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、膀胱癌、心筋梗塞、脳卒中などの原因にもなります。
ぜひこの機会に禁煙を目指してみてください。
やめたいのにやめられない場合は、禁煙外来を利用されるのもお勧めです。

睡眠不足

 睡眠不足も膵臓に負担をかけます。
仕事などでなかなか難しいこともあるかと思いますが、できるだけ睡眠時間を確保するようにしてください。

早食い

 消化酵素のアミラーゼは、膵臓だけでなく、唾液腺でも作られています。
良く噛んで食べることで、食物が砕かれて消化されやすくなるだけでなく、膵臓でしなければいけない消化作用の一部を口の中で行うことにもなり、膵臓を助けてあげることができます。
また、良く噛んでゆっくり食べることで、血糖値の上昇も緩やかになります。
膵臓で作られる、血糖値の上昇を抑えるホルモン(インスリン)の分泌もゆっくりで済むようになるため、膵臓が楽をできるわけです。

運動

 膵臓が弱い方は、10Km以上ジョギングをされると、痛みを訴えられることが少なくありません。
(5Kmほどのジョギングであれば、痛みを訴えられることはないように思います。)
一方、自転車はいくら乗っていただいても痛む方がいらっしゃらないようです。
このことから、長時間、上下の振動が加わると痛みが出てしまうのではないかと考えています。

その他、テニス、ゴルフ、野球などの強くねじる運動、および前屈などの腹圧がかかる運動は痛みが出やすいので注意してください。

なお、痛みが出ても、それで病気が進行するわけではないので、過度に心配はなさらないようにしてください。

サプリ

 英国・王立ビクトリア病院の研究で、慢性膵炎に伴う痛みに抗酸化サプリメントが有効だったとの論文が発表されています。
Combined antioxidant therapy reduces pain and improves quality of life in chronic pancreatitis.
Kirk GR, White JS, McKie L, Stevenson M, Young I, Clements WD, Rowlands BJ Journal of Gastrointestinal Surgery 2006; 10:499-503.

抗酸化物質である、セレン、β-カロチン、ビタミンC、Eを含むサプリで痛みが改善した、との内容です。
市販で手に入るサプリとしては、大塚製薬 ネイチャーメイド スーパーマルチビタミン&ミネラルが手に入りやすく、リーズナブルなので比較的おススメです。
脂肪制限食で不足しがちな脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の他、肌の状態を改善するビタミンB 群、ビタミンCを豊富に含み、膵臓の働きに大切なクロムを含んでいます。
ただ、当院の患者さんのお話を伺う限り、「劇的に効いた!」という方はいないように思います。
当院では、痛みが強い人は試してみてもいいかもね、という程度の推奨具合です。

 逆に言えば、サプリメントなんて大体そんなものです。
特別な薬効を期待して、高いサプリをたくさん飲む方もいらっしゃいますが、脂溶性ビタミンはサプリで取り過ぎると癌が増えることもよく知られていますし、私自身もサプリは飲んでいません。
一方、ちゃんと運動してたくさん野菜を食べるのは、確実に寿命を延ばします。
手軽な方法でごまかそうとするのではなく、きちんと地道に対策を打つことが何より大切と思っています。

 膵臓が弱い方に関して言えば、サプリよりもきちんと睡眠時間を確保するとか、睡眠の質をよくする工夫をするとか、食事・ストレスのコントロールに取り組む、といった地道な対策の方が、よほど優先度が高いと思います。