膵臓の「未病」について

2020/08/03更新

おすすめの検査

 膵臓の症状を疑ったら、まずは検査をしなければなりません。
膵臓の症状があって、生活療法などでよくなる方々のうち、検査では何も引っかからない方が8割くらいいそうな気がします。
(今度ちゃんと集計してみたいと思います)
しかし、一部の方は血液検査で引っかかったり、膵嚢胞があったり、膵臓の奇形があったりします。
ごくごくまれには腫瘍があることもあります。

 一方、「これだけの症状があるのだから、自分は膵癌で、もう死ぬのではないか」と思って来院される方の率は8割を超えそうな気がします。
他院で色々な検査を受けても「異常がない」と言われる、「精神科に行け」と言われて行ってみたが、全く症状は改善しない、となれば誰でも不安になるのが当たり前ですが、ストレスも膵臓にとっては負荷になりますので、注意が必要です。

 おすすめなのは、保険適応で受けられる検査を適切に受けて、状態に応じた経過観察をして、ひとまず安心すること。
この章では、どんな検査を受ければいいのかをご紹介したいと思います。

血液検査

 一番簡単なのは、なんといっても血液検査。
まずは血液検査について、説明いたします。

アミラーゼ

 血液検査の中でも、最も有名なのがアミラーゼ(AMYと略されることが多いです)。
ただし、アミラーゼはあまりあてになりません。
急性膵炎と言えば激しい症状が出ることも多い病気ですが、そんな急性膵炎でも、アミラーゼの感度は91.7~100%とされています。
(参考:急性膵炎の診療ガイドライン - 難病情報センター
つまり、アミラーゼだけで判断すると、8.3%の急性膵炎を見逃しうる、ということです。
当院の患者さんを見ても、リパーゼやトリプシンが高値なのに、アミラーゼが正常値、という方はものすごく多いです。

 また、アミラーゼが高値でも、特に心配ない場合が結構多いのです。
それはどういうことなのでしょうか。
次の項でご説明します。

マクロアミラーゼ血症

 アミラーゼが高値でも心配ない状態の代表が、このマクロアミラーゼ血症です。
アミラーゼに免疫グロブリン(抗体として働く蛋白質)がくっついて大きくなってしまい、腎臓から尿に排泄できなくなってしまいがちな体質の方が結構な数いらっしゃいます。
その場合、尿中のアミラーゼは低くなります。
尿でアミラーゼが排出できなくて血中のアミラーゼが高値になっているだけですから、病的な意義はなく、全く気にする必要はありません。

P型アミラーゼは正常パターン

 ひとくちに「アミラーゼ」といっても、実は「P型」と「S型」があります。
P型は膵疾患で高くなり、S型は唾液腺関連で高くなります。
アミラーゼが高くてもP型アミラーゼは正常値、という場合は膵臓の病気とは関連がありませんから、余計な心配は必要ありません。

リパーゼ

 アミラーゼの次によく測られるのが、リパーゼです。
アミラーゼと違い、基本的には膵疾患でしか上昇しませんし、信ぴょう性も比較的高い検査です。
検査の値段もリーズナブルなので、他院の先生にも頼みやすい検査と思います。

 膵疾患以外で高値になる原因としては、肝硬変、十二指腸潰瘍穿孔(潰瘍で十二指腸に穴が開いてしまうこと)、腎不全などがありますが、そう多い疾患ではありませんので、それらを疑うことは日常的にはあまり多くないと思います。

 リパーゼが低値で「自分は慢性膵炎が進んでしまった状態なのではないか」と心配される方も多いのですが、腹部エコーなど、画像検査で何も異常がないような方が低値になっている場合は、まず心配ありません。

トリプシン

 こちらも比較的信ぴょう性の高い血液検査項目です。
が、料金が比較的高く、しょっちゅう測っていると保険で査定されてしまう検査項目ですので、当院では「念のため詳しく測っておいた方が良さそうだな」という患者さんに限って検査するようにしています。

エラスターゼ1

 膵炎でも膵癌でも高値になる項目です。
腹部エコーなど、画像検査とともに検査しないと、保険で査定されてしまうことがあります。
当院では、リパーゼ・トリプシンのどちらかが高値な方のみ、腹部エコーの日に測定しています。

CA19-9

 こちらはいわゆる「腫瘍マーカー」です。
それほど信頼性は高くなく、少し高値でも何も病気がないことも少なくありません。
これも腹部エコーなど、画像検査とともに検査しないと、保険で査定されてしまうことがあります。
当院では、リパーゼ・トリプシンのどちらかが高値な方のみ、腹部エコーの日に測定しています。

腹部エコー

 簡便で安全に施行できるため、腹部エコー(超音波検査)は必須の検査となります。
弱点として、胃腸の中のガスや、脂肪で見づらくなることが挙げられます。
保険診療で腹部エコーを受ける場合、3割負担で1700円程度の料金であり、膵臓の以外にも、胆嚢、肝臓、脾臓、腎臓などもチェックできるため、非常にお得な検査でもあります。
1cm以下の腫瘍の描出率は50%、3cm以上であれば95.8%と報告されています。
Sharma C, Eltawil KM, Renfrew PD, et al. Advances in diagnosis, treatment and palliation of pancreatic carcinoma:1990-2010.WorldJGastroenterol 2011;17:867-97.

MRCP

 MRCPはMRIの撮り方の一つで、胆嚢、膵臓、総胆管などがよく見えます。
特に膵管(膵臓の中の管)の異常や、膵臓の奇形などを診断するのに非常に有用です。
近年の画質向上により、かなり診断性能が上がっていて、膵癌に対する感度は95%、特異度は82%と報告されています。※
なお、保険診療では、何か異常がないとMRCPを行うことができません。
CTと違い、被曝がないため気軽に受けられますが、30分程度、うるさくて狭いトンネルのようなところに入らなければならず、閉所恐怖症の方には辛い検査となります。
(Open MRIという比較的空間の広いMRIもありますが、画質は落ちてしまいます。)

Lopez Hanninen E, Amthauer H, Hosten N, Ricke J, Bohmig M, Langrehr J, Hintze R, Neuhaus P, Wiedenmann B, Rosewicz S, Felix R. Prospective evaluation of pancreatic tumors:accuracy of MR imaging with MR cholangiopancreatography and MR angiography. Radiology 2002;224:34-41.

造影CT

 小さい腫瘍を見つけるのにはMRCPよりも造影CTの方が有利なことがあります。感度は85~100%、特異度は82~92%と報告されています。なお、造影剤を使わない単純CTでは膵がんを検出できないことが多く、日本膵臓学会のガイドラインでは膵がんの検査目的での単純CTは推奨されていません。
デメリットは、放射線被曝と、造影剤による副作用の可能性です。造影剤によって副作用が起きる可能性は3%程度で、ショック、心停止、呼吸困難などの重篤なものは0.04~0.004%と報告されています。

超音波内視鏡(EUS)

胃カメラ

膵臓は胃の後ろ側にありますので、膵臓が痛いのか、胃が痛いのか分からないこともよくあります。
場合によっては膵臓にも胃にも病気がある可能性があり、しっかり胃の検査も行っておくことをお勧めします。
当院ですと、慢性胃炎など、何らかの所見があれば、できるだけ毎年胃カメラを受けていただいています。
どんな名人でも、1mmの癌を100%確実に見つけることはできません。
見逃しを防ぐためには、やはり定期的に胃カメラを施行する必要があると考えています。
早く見つけてしまえば、たちの悪い癌でない限り、多くの場合、胃がんは内視鏡だけで完治させることができてしまいます。
(日本の先生方はその分野で世界のトップを走っています。)

大腸カメラ

大腸は腹部全体をぐるっと一周しています。
膵臓のすぐ近くも通っており、大腸カメラで膵臓の近くを通るとき、膵臓が痛んでしまう方も少なくありません。
同様に、大腸にガスやお通じがたまると膵臓に痛みを感じる方も多いように思います。
(そういう方は、排ガスや排便で膵臓の症状が楽になります。)

逆に言うと、痛い場所から膵臓の病気だと思っていたら、実は大腸の病気だった、ということもあり得るのです。
したがって、念のため、大腸カメラも行っておくことをお勧めしています。
便潜血検査(お通じに血が混じっていないか調べる検査)は精度が低いのですが、何らかの事情で大腸カメラを施行できない場合は、便潜血検査を行うと良いだろうと思います。